愛らしい兎たち~「兎の郷土玩具展」より | 日本玩具博物館

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学芸室から 2022.12.29

愛らしい兎たち~「兎の郷土玩具展」より

いよいよ年の瀬、皆さまには忙しくお正月を迎える準備をなさっておられることでしょう。当館では、12月27日が年内最終の開館日。28日は、スタッフ総出で館内の大掃除や棚卸しなどに汗を流し、新春を祝う飾り付けも少しずつ整えて・・・。1号館やランプの家の囲炉裏端を彩る「餅花」は、クロモジの枝に紅白の餅片を花のようにつけた当地の正月飾りで、当館からほど近い香寺民俗資料館より分けていただいたものです。クロモジには抗ウィルス作用もあるといいますから、コロナ除けの願いも込めて・・・。

餅花飾り

本年は、当館が抱えるコレクション群と積み重ねてきた博物館活動を次世代へと継承していくための試みを始動させようと努力を重ね、その道筋が少し見え始めました。来年は卯年。跳躍力のある兎にあやかり、元気に躍動できますように。どうか、見守ってくださるようお願いいたします。

さて、2号館の特別陳列コーナーには、日本各地で作られた兎の郷土玩具を昭和2(1927)年卯年の年賀状と合わせてご紹介しています。十二支の動物玩具展は新春恒例の企画で、毎年、11月から12月初旬にかけては年賀状のデザインを求め、展示ケースの前で懸命にスケッチされる来館者も多くいらっしゃいます。そのスケッチを絵手紙に仕立てたからと作品を見せて下さる方もあり、郷土玩具のどの造形に惹かれ、そこにどのような夢を託されたのか、書(描)き手のまなざしと心に触れるようで、絵手紙によるお便りは嬉しいものですね。

「兎の郷土玩具」展示風景

❝日に烏(からす)月に兎❞といわれるとおり、月に兎は付きものであるばかりか、白く丸い兎は「玉兎」と呼ばれて月そのものを象徴します。福島県の三春張子や山形張子、また大阪張子や京都府の伏見土人形をはじめ、玩具化された「玉兎」たちは、まろやかな姿態と月光のような純白の輝きが見る者をほっこりとした気分にさせてくれます。玉兎には吉祥をもたらす意味あいが込められていますので、新春にふさわしい造形でしょう。

各地の玉兎(上=三春張子/山形張子 下=大阪張子/伏見土人形)

躍動する兎を表わす郷土玩具には、今月のおもちゃ1月号でもご紹介する宮城県の堤土人形「波乗り兎」や、跳ねまわる兎の可愛らしさを伝える静岡県の浜松張子「兎ころがし」などがあります。

堤土人形「波のり兎」と浜松張子「兎ころがし」

また、まんろく工房・千葉孝嗣さんが再現された「青森の兎」も、月に向かって跳躍するような兎の生命感あふれる作品です。これは、柳宗悦が著書『民と美』で賞賛した兎の土人形を、その白黒写真だけをたよりに千葉さんが手ひねりで再現されたものです。柳宗悦は、名もなき職人の手仕事によって生み出された生活道具のなかに美を見出していく❝民藝運動❞の中心にあった大正時代の思想家。柳はこの兎について、「如何にも日本の玩具に見られる柔らかさ親しさ、平和を示している好個の一例であろう」と称え、九州方面の産と記していますが、郷土玩具に親しんてきた私たちの目には、白黒写真によっても青森土人形の特徴を具えた品と映ります。――このような千葉さんの再現制作は、郷土玩具界の将来にとって、非常に意味深く面白い試みです。戦前の青森土人形と合わせて展示しておりますので、ご来館の折には目を留めてご覧ください。

『民と美』掲載された兎の写真(千葉孝嗣氏ご提供)と再現された「青森の兎」
青森土人形「福袋もち兎」(昭和10年代)と再現された千葉さんの兎

2023年卯年は、年始開館予定の1月4日が定休館日の水曜に当たるため、1月5日より開館いたします。新春の夢をのせて跳躍する元気な兎たちに、ぜひ会いにいらしてくださいませ。皆さま、どうぞよい歳をお迎えください。

(学芸員・尾崎織女)

<追記御礼>
地元情報紙「播磨リビング新聞」編集室よりご依頼をいただき、2020年12月より2年間、ひと月に1回のペースで25回にわたって書かせていただいた❝おもちゃ歳時記❞は、今月をもって連載終了となりました。連載中は「この玩具を見たいのですが…」と同紙を持参される方もあり、その玩具をまじえて、地元の皆さまと親しく対話できたこともよい思い出です。ご愛読、誠にありがとうございました。(尾崎)

2022年の「おもちゃ歳時記」――「播磨リビング新聞」より

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