日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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館長室から 2011.06.11

博物館の使命は、文化遺産を守り伝えること

夜になると館長室の東を流れる用水路に、蛍が飛び交うようになりました。総数で10匹ほどですが私たちを楽しませてくれます。1号館での企画展「世界のミニチュア展」の撤収作業は去る7日の夕方から始まりましたが、小さな資料を1000点近くも展示していましたので、撤収作業の大変さは予想をしていました。しかし、スタッフ全員の頑張りのおかげで夜中の12時近くには目途もつき、翌8日の夜には「七夕と夏まつり」の展示も無事完了しました。いつものことながらスタッフの熱意に頭が下がります。

紫陽花の花が咲き始めました。

七夕に関わる資料の収集は、今から44年前に私が姫路市南東部周辺の地域で七夕人形が飾られる風習を発見、報告して以来の資料収集の蓄積があります。しかし私の収集だけではなく、<ブログ「学芸室から」2011年6月10日>で尾崎学芸員が報告しているように彼女自身も七夕行事に関心を持ち、全国各地で調査収集しています。それらの貴重な資料も展示されていますので、内容は濃いです。これまでにも当館では、七夕に関わる資料の展示をしてきましたが、2号館の一部を使った小規模な展示で、今回のような1号館を使った大きな展示は初めてです。それに実物資料だけではなく、各地の七夕飾りの状況や風景などが写真でも数多く紹介され、七夕行事を理解するための分かり易い見応えのある、おそらく全国でも珍しい展示会になりました。

今回の企画展では、明治期や昭和初期の七夕に関わる貴重な資料が多数展示されているのに驚かれる方もあると思います。明治期の七夕人形は銀山で有名な生野で作られたもので、35年ほど前に骨董屋が生野の蔵から出たと持ち込まれたのを購入したのです。それを手がかりに生野でも七夕人形を飾る風習があったことが判明し、近年、生野では町おこしとして七夕人形が飾られるようになりました。昭和初期の七夕関係の資料は、仙台市の高砂地区や千葉や茨城県下で作られ、七夕に飾られたマコモ馬で、当館が受け入れた尾崎清次コレクションの一部です。これらは金銭価値があるものではなく、意識的に遺さないと今に伝わらなかったでしょう。記録し後世に伝えて下さった尾崎先生の偉大な功績を再認識した次第です。

今月の6・7日の両日、博多の九州産業大学で日本ミュージアム・マネージメント学会の第16回大会があり参加しました。いろんな研究成果の発表がありましたが、気がかりだったのが文化環境研究所所長高橋信裕氏の発表でした。地方の博物館では閉館になる館が増え、収集資料が放置され、活用されずにある危機的な状況の報告でした。その背景には「博物館法」などの国家による一律的な指針や役割規制が制度疲労を起こし、求心力が失われている現状があるとの指摘でしたが、私はむしろ「博物館法」の精神が理解されず、博物館の果たすべき本来の役割が形骸化されて、文化遺産を守るための施設ではなく集客装置化しつつあることが、大きな問題点ではないかと思いました。全国の自治体に博物館の本質を理解する行政マンが少ないのも問題ではないでしょうか。博物館は国による一律化や標準化から、各地方の実情に見合った「博物館法」の適用が可能なよう緩和化が進むとも言われましたが、それではますます博物館が形骸化する可能性が大きいと虚しい気持ちになりました。私は博物館が果たすべき重要な使命は「民族、歴史、生活文化などを体系的に表す場として、資料を継続して収集、研究し、未来に伝えることにあり」、展示活動はその上に成り立つのです。今回の七夕展のようなユニークな展示ができるのは、資料の蓄積があるからです。文化財の収集保存のために、公立博物館にも劣らぬ活動をしている私立博物館を支援することは文化遺産を守るために必要な施策ではないでしょうか。

マコモ馬(千葉県、大正末~昭和初期)
コモクサ馬(旧宮城県宮城郡、現仙台市、大正~昭和初期 )
マコモ馬一対(東京都中央区、大正~昭和初期)

先般来館された某県立博物館の学芸員から、年間の収集予算がゼロと聞かされて絶句しましたが、数年前にも日本の博物館の半数が収集予算ゼロという報告を聞いたことがあります。博物館にとって大切なのは、資料を体系的に収集保存し未来に伝えることが活動の柱にならなければならない筈なのに、収集予算ゼロの状況が続けば、博物館の春は遠いと思うのです。私は2007年5月の日本学術会議の声明『博物館の危機をのりこえるために』を繰り返し読んでいます。そして「博物館に託された役割と機能は、高い学術・芸術的価値と時間的価値を集積した実物資料の保存、継承、活用にある。博物館は、広く国民に対し、資料をできる限り適切な環境で公開し、その価値をわかりやすく示し、これらを確実に次世代に伝えることが期待されている。」との言葉を肝に銘じています。

昨年1年間、時事通信社の配信で全国の地方新聞に連載された私のコラム『ふるさとの玩具』が1冊の本になり、平凡社から9月ごろに出版されることになりました。作業にかかっていますが、製作者の住所や販売先なども載せ、「ふるさとの玩具」の活性化にも役立つことを願っています。(井上重義)

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