日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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館長室から 2010.11.29

「ふるさとの玩具」を脱稿して

当館の庭の黄や赤に染まった木々の葉も、落ち葉となって次々に舞い散り、深み行く秋の日を満喫しています。師走も間近の季節になり、1号館では来年の干支の兎や羽子板を展示する企画展「干支のうさぎと羽子板」展が始まりました。6号館の「世界クリスマス紀行」と併せた季節感あふれた二つの展示が大好評です。受付担当者からも「来館者の皆さんから来てよかったと感動の言葉を再三いただきます」と嬉しい報告があります。

今年の1月1日から時事通信社の依頼で執筆していたコラム「ふるさとの玩具」の連載は12月末で終了しますが、最後の原稿である12月下旬分を先日届けました。私自身は、江戸時代から明治時代を中心に日本各地で誕生した郷土玩具の存在とその素晴らしさを一人でも多くの方に知っていただければと引き受け、人生最後の大仕事のひとつと位置づけて1年間頑張ってきました。しかし仕事を終えた充実感よりも、全国各地から郷土玩具 が失われつつある現状を知り、何か空しいような思いにとらわれています。

木地玩具の自動車(宮城県)

12月は山形、秋田、岩手、青森、北海道の郷土玩具を順次紹介して連載が終わりますが、かつて東北地方は木の玩具の宝庫でした。ろくろ細工の木の人形としてこけしがあり、またこけし作者の多くがさまざまな木の玩具を作っていました。昭和51年には、それらを一冊の写真集に纏めた『日本の木地玩具』が文化出版局から出版されました。しかし現在ではその多くが作り手もなく入手不可能です。ろくろ細工以外にも東北は木の玩具の宝庫でした。ところが、横手市のぼんでん、花巻市の木彫りの鹿踊りや盛岡市の板馬や桐馬(チャグチャグ馬)がこの近年に廃絶し、米沢市の笹野彫り、北海道の木彫りの熊なども後継者が育たず厳しい状況下に置かれています。

桐馬と板馬(岩手県盛岡市)

さらに私にとって大きなショックは山形県小野川温泉にあった「独楽の里つたや」が今年の初めに閉館していたことでした。独楽の生産では日本一を誇り、東北地方に伝わる独楽などを大量生産して全国に卸し、全国の独楽の展示や独楽回し大会など、独楽遊びの楽しさを伝える活動をされていました。当館とも開館以来の付き合いがあり、町おこしにも熱心に取り組まれていると聞いていました。閉館に至る詳しい事情はわかりませんが残念です。ただ独楽の生産は引き続きされており安心しましたが、気になったのは最近のつたや製の独楽には「日本製」と書かれたシールが貼られていることです。日本の伝統の独楽にも中国製のものが出てきたと聞いていましたが、東北地方の独楽にもその影響があるのでしょうか。

ただ土人形は「雛めぐり」が盛んになった影響もあるのでしょうか、廃絶していた鶴岡、花巻の土人形が復活、廃絶の恐れがあった酒田人形もそれを継承するための伝承の会が生まれたのが明るいニュースです。

古くから各地の風土や暮らしの中から子どもたちのために作られた郷土玩具の多くは、明治時代後半にブリキやセルロイドなどの新素材で工場生産される玩具が出現すると子どもたちの手を離れて消え行く運命にありました。それはわが国だけではなく世界的な流れでした。ところがわが国ではその多くが消えずに残ったのです。それは郷土玩具が失われる寸前、郷土玩具に日本美を見いだし、潤いを求めて集めて楽しもうという大人たちが現れたからです。昭和初期に郷土玩具の蒐集ブームがあり、さらには昭和30~40年代にもありました。そのような大人に支えられて世界に誇れる郷土玩具の数々が今に残ったのです。それが現在、時代に流され、多くが消えようとしています。

この「ふるさとの玩具」のコラムは、連載終了後1冊の本にまとめて出版の予定です。ただ掲載終了後6ヶ月間は出版できないとの決まりがあり、当館では来年の秋に1号館の企画展として掲載作品を中心にした企画展「ふるさとの玩具・古今東西」(2011年9月17日~11月19日)を開催しますのでそれにあわせて出版予定です。ふるさとの玩具の具体的な入手先や作者名なども明記して、郷土玩具の手軽なガイド本にもなればと考えています。

(館長・井上重義)

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