日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

展示・イベント案内

exhibition
特別展

夏秋の特別展 「メキシコと中南米の民芸玩具」

会期
2023年7月8日(土) 2023年10月22日(日)
会場
6号館

中南米(ラテンアメリカ)は、この地に何千年も前、遥か昔から住んでいた先住民と大航海時代を経て、16世紀以降に入植してきたスペイン人やポルトガル人らが攻防と対立を繰り返し、他方では混血と融合を重ねることで形成された世界です。さらには新たな民族によって多様な人種が入り混じり、世界各地からもたらされた文化がモザイクのように共存しています。そのような地では、玩具文化もまた非常に豊かなバリエーションを見せてくれます。
     
中南米(ラテンアメリカ)は、一般的にはメソアメリカ、中間地域、中央アンデス、南部アンデス、南アメリカ南部、ブラジル東部、アマゾン地域、カリブ海域の8つの文化領域に分けられています。それらを参考に、本展では、木や土、骨、石、瓢箪、麦わら、きびがらなどの自然素材で作られる郷土性のある民芸玩具を、「メソアメリカ」に属するメキシコを中心に、「中部アメリカ」「カリブ海地域」「アマゾン地域」「ブラジル東部」「南部アメリカ」「アンデス」の7つの地域に分けて、それぞれに特徴のある造形をご紹介します。
また、「コマ・けん玉・がらがら・凧」「楽器と発音玩具」の項目により、中南米の地域的なつながりと共通性を探ります。

素焼き彩色の人形(メキシコ・ゲレロ州/ブラジル・ペルナンブコ州/ペルー・アヤクーチョ県)

大量生産・大量消費の文化が世界の隅々にまでいきわたり、製造の場面で急速に進んだグローバリゼーションが加速し、各々の民族に伝承される造形感覚が退潮していく現在、郷土色豊かで、それぞれが個性的な中南米大陸の民芸玩具は、私たちに何を知らせてくれるのでしょうか。

グアダラハラ陶器の列車(メキシコ・ハリスコ州)

当館には、メキシコ、ブラジルをはじめ、3,000点に及ぶ中南米の玩具のコレクション群があります。特に、1980年代にメキシコ民芸家の協力のもとに入手した2,000点を超えるメキシコ各地の郷土玩具コレクションには見るべきものが多く、また1995年に現地採集したブラジル先住民の伝承玩具の数々は、日本国内にはなかなか入ってくるルートがないこともあって特筆すべきコレクションです。

きびがら細工・ムーラの荷車/音楽家(メキシコ州)

先住民たちが伝える信仰に裏打ちされた厳粛な造形、南ヨーロッパの人々がもたらした装飾性に富み、色彩豊かな美的感覚、征服と抑圧の歴史から生まれた深い哀しみのデザイン、それらを昇華したユーモアに満ちた造形表現など、様々な要素をもった中南米の民族造形の世界を、当館の玩具コレクション群が物語ってくれれば幸いです。                 

展示総数 約1,200点

A 東室<メキシコの民芸玩具> 

2000年以上前に出現したオルメカ、さらにマヤ、テオティワカン、アステカなどの古代文明が栄えたメキシコの地は、民芸の宝庫としても知られています。きらめくような色彩とユニークな造形は、それぞれに陰影が濃く、見る者、触れる者を惹きつけてやみません。
メキシコの民芸は、様々な文化の混合によって花開いたものといわれます。古代文明を築いた先住民の造形文化伝統工芸の上に入植してきたスペイン人の芸術、奴隷の移入によってもたらされたアフリカ大陸の造形文化が加わり、混血と融合を重ねるなかで育まれたからです。

からくり仕掛けのメリーゴーラウンド(メキシコ・オアハカ州)


今も、土や木、紙、瓢箪や木の実、ヤシの葉、麦わらなどの自然素材の持ち味を生かした玩具が、何世代にもわたる伝承によって、またさらに製作者の自由な造形力のもとに各地で作られ続けています。それらは、産地の風土や歴史を反映し、地域の宗教行事や祭礼にも深く関わる郷土色をもち、一方で、世界各地の民芸玩具に共通するものもまた多くみつけることができます。コマやけん玉、ボール、はしご人形、体操人形、バランス人形などはその数例です。
この展示室では、当館が誇るメキシコ民芸玩具コレクションの中から約700点を選び、「メキシコ~郷土色のきらめき~」として、大きく三つの地域―「西部地帯」「中央地帯」「南部地帯」—に分けて州ごとの造形的特徴をご覧いただきます。また「メキシコ民芸玩具~生命の讃歌~」として生命樹の燭台のいろいろを、「メキシコ民芸玩具~愛らしさを抱く~」として、抱き人形やままごと道具を、「メキシコ民芸玩具~祭礼の喜びとともに~」として、精霊の日のカラベラ(骸骨)人形や聖週間のフーダス、聖体の日のムーラ、また張り子面のいろいろをご紹介します。

*メキシコ民芸玩具~郷土色のきらめき~*

【西部地帯の民芸玩具】(ナヤリト州・ハリスコ州・ミチョアカン州・ゲレロ州など)・・・陶器の産地として有名なハリスコ州トナラやグアダラハラ、ゲレロ州トリマンやアメヤルテペックからは、のびやかな動物造形や人形を、漆芸の村・ゲレロ州オリナラからは木の実にラッカーを施したユニークな乗り物玩具を紹介します。ナヤリト州の高地に暮らすウイチョル族が伝える毛糸細工の動物造形や、伝統的な暮らしを守るミチョアカン州パツクワロのプレペチャ族の風俗人形や麦わら細工も見どころです。

ウイチョル族の「神の目(オーホ・デ・ディアス)」(ナヤリト州)

【中央地帯の民芸玩具】(グアナファト州・メキシコ州・イダルゴ州・プエブラ州など)・・・プエブラ州イスーカルデマタモロスやメキシコ州メテペックからは、色彩鮮やかな土製玩具を、グアナファト州セラヤからは大らかで素朴な木製玩具や張子玩具を紹介します。プエブラ州の民芸にはミニチュアの造形も多く見られます。首都メキシコシティーを中心とするメキシコ中央地帯の民芸玩具の特徴は、装飾過多とも思える埋め尽くしの造形と鮮やかな彩色にあります。

【南部地帯の民芸玩具】(オアハカ州・チアパス州など)・・・陶器に木彫、染色に織物…と、オアハカ州はメキシコ民芸の宝庫です。擬人化された動物玩具にユニークなものが見られるほか、ブリキ細工にもデザイン性の高い作品が目立ちます。チアパス州の素焼きの人形や動物造形は、古代の土偶を想わせます。南部地帯の民芸玩具は、素朴さと近代的デザイン感覚がうまく溶け合い、大きな存在感を示しています。

ブリキ細工・ブランコで遊ぶ子、民族衣装の男(オアハカ州)


*メキシコ民芸玩具・生命樹~生命の讃歌~*

古代メキシコにおいて、生命樹とは生命の再生をもたらすセイバの木をさすといいます。それは天上界と地下界、神々の世界と人間界をつなぐ柱のような樹木であると語られます。生命樹を表わす造形は、メキシコ州メテペックやプエブラ州イスーカルデマタモロスなど、メキシコ中央地帯に多くみられる造形ですが、いずれも、花々が咲き乱れ、たわわに実をつけた樹木には鳥や動物たちが憩い、時にはキリスト教世界の人祖と伝えられるアダムとイブまでも抱合しています。生命の輝きと豊かさを讃えているかのようです。
また、オアハカ州のブリキ細工の生命樹の燭台は、クリスマスツリーにも見立てられた造形で、大地から生えたような手が指し示すのは、天にあってこの世の生命の源となる太陽でしょうか。天使たちが捧げもつキャンドルに火を灯すと、ブリキのつややかな表面がきらめきを強め、光と影が太陽光を象徴するようにゆらゆらと揺れて、メキシコの精神世界の扉が目の前に開かれたような気分になります。


*メキシコ民芸玩具・人形とままごと道具~愛らしさを抱く~*

人形たちは、先住民とヨーロッパ系の民族が混血を繰り返して誕生したメソアメリカの人々の表情をよく映しています。黒い瞳の愛らしい抱き人形や、民俗衣装をまとった風俗人形などを紹介します。メキシコ各地で作られるままごど道具の数々も合わせて展示しています。木、土、硝子、真鍮、ブリキ、椰子の葉…と、その素材も様々。愛らしいままごと道具の多彩さからは、メキシコの食文化の豊かさと子どもたちへの愛情がよく感じられます。

グアダラハラの食器棚(ハリスコ州)


*メキシコ民芸玩具~祭礼の喜びとともに~*

メキシコでは、他の中南米の国々と同様、キリスト教の影響を受けて発展した祭礼、土着の信仰に基づく祭礼など、四季折々に数多くの行事がもたれ、それにともなって人形や玩具が登場します。フーダスと呼ばれる張子人形が活躍する聖週間や、ユーモラスなカラベラ(骸骨)が登場する精霊の日などが有名ですが、これらは、土着の信仰とキリスト教が融合して誕生したものです。

精霊の日のカラベラ・・・11月1日の「デア・デ・ムエルトス(精霊の日)」には、カラベラ(骸骨)の玩具が街に溢れます。祖先の霊魂が家族のもとに戻ってくる日、人々はカラベラをかたどった砂糖菓子、張子や土製のカラベラ人形を祭壇に飾ります。侵略と虐殺によって深く傷ついたこの国の歴史を超え、苦しい死のイメージを人間らしく温かさのある造形に昇華させたメキシコの人々の懐の深さがうかがえます。

聖体の日のムーラ・・・キリストの復活から60日後の木曜日には「コルプス・クリスト(聖体の日)」が祝われます。子どもたちは日本の七五三のように、民族衣装を身にまとって教会へ出かけ、トウモロコシの皮で作られたムーラ(=ラバ)の玩具を買ってもらいます。この日、街中には大小のムーラが溢れます。

聖体祭で売られるきびがら細工のムーラ(ハリスコ州サンタアナ)

祭礼の日のピニャータ・・・ナビター(=クリスマス)や子どもたちの誕生日、大人たちは素焼きの壺に菓子や玩具などを詰め込み、ボール紙などで星形や動物形に仕立てたピニャータを天井からつるします。パーティーの終わりに目隠しをした子どもたちが、まるで日本の西瓜割りのように、これらを叩き割る楽しい習慣があります。壺が壊れて床に散らばった菓子や玩具を拾い集めて持ち帰った楽しい思い出は、メキシコの人たちにとって幸せな子ども時代の象徴ともなっているようです。

星形のピニャータ(メキシコシティー)


★特別陳列~オアハカの木彫りの動物~

オアハカの木彫りの動物たち 1980年代製(オアハカ州ラ・ウニオン・テハラパン村)

大らかに見開いた杏仁型の目、安定感のある体躯、ビビットで明るい色彩ーーこれら魅力的な木彫動物たちの生まれ故郷は、メキシコ南部のオアハカ州です。オアハカはスペインの入植を受ける以前から木彫工芸の伝統をもち、植民地時代にはキリスト教の聖人像なども作られていたといわれますが、広く世界の民芸愛好家に親しまれる作品づくりが始まったのは、1950年代終わりのこと。オアハカ渓谷の小さな村アラソラで、マヌエル・ヒメネスが農場の人物や動物を題材に木彫作品を生み出し、近くの町で販売を始めたのが始まりです。それが美術家の目に留まり、高い評価を受けるようになると、次第に彼をまねて木彫に取り組む人々が増え、今では、アラソラ村に加え、近隣の村々でも独自の作品を制作しています。
本展では、このオアハカ木彫動物を始めたマヌエル・ヒメネスの作品に魅せられ、コレクションを増やしつつ、作品を研究されている岩本慎史さん所蔵の品々を特別にお借りして、当館が所蔵するラ・ウニオン・テハラパン村のサンティアーゴ一家の1980年代作品をともにご紹介いたします。


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このコーナーでは、中南米の民芸玩具を7つの地域にわけて紹介します。
  メソアメリカ……………メキシコ・グアテマラ・ニカラグア・エルサルバドル
  中部アメリカ……………コスタリカ・パナマ・コロンビア・エクアドル
  カリブ海域……………ハイチ・キューバ・ジャマイカ・ドミニカ・ベネズエラなど
  アマゾン地域ブラジル東部……ブラジル
  アンデス…………………ペルー・ボリビア・チリ
  南部アメリカ…………アルゼンチン・パラグアイ・ウルグアイ

*メソアメリカの民芸玩具*

マヤやアステカなどの魅惑的な古代文明を前身に持つメソアメリカ地域は、民芸品の宝庫として知られています。赤・緑・黄・青など原色を豊かにちりばめたユニークな造形は、見るものを魅了して止みません。土や木、紙、植物素材を駆使し、郷土の伝統工芸の技を取り入れて製作されるメキシコやグアテマラの郷土色豊かな風俗人形や玩具がみどころです。   

ナワラの木彫彩色の動物たち(グアテマラ・ソロラ県)


*中部アメリカの民芸玩具*

コスタリカ、パナマ、コロンビア、エクアドルなど、南北アメリカをつなぐ地帯の国々には、民族的なセンスあふれる玩具と、近代的なデザイン感覚に基づいた玩具の両方が見られます。玩具の中には、市場の風景や祭礼の様子、子どもたちのファッションなど、人々の暮らしが織り込まれています。

日曜市の風景(コロンビア)


*カリブ海域の玩具*

カリブ海を取り巻くように広がる大アンティル諸島の国々では、おおらかで明るい色彩の玩具が作られています。キューバで生まれた木の実の動物造形や仮面、ベネズエラの張子玩具にもおもしろいものが見られます。

*アマゾン地域の玩具(ブラジル先住民の玩具)*

広大なブラジルの深奥部に発し、国土の中心を流れるアマゾン川流域には、今も昔ながらの暮らしを営む先住民の村々が点在しています。80に及ぶ部族のそれぞれが特色ある民芸を有していますが、近代文明の波が彼らの伝統的な生活を変化させ続けているのも事実です。ここでは、カラジャ族、タピラぺ族、クイクロ族の民芸玩具や部族の人形を中心に紹介します。木や石、土、動物の骨、皮、羽根、植物など、身近にある素材から生まれた造形には、子どもに対する愛情と自然に対する畏敬の心が感じられ、見るものをやさしく厳かな気持ちにさせてくれます。「人形」「動物」「生活道具」の項目で展示します。

*ブラジル東部の玩具*

ブラジルは、知られざる「民芸玩具のサラダボール」です。各町では、日曜ごとに大きな市が立ち、様々な種類の手作り玩具が売られます。地域の先住民の玩具はもちろん、ヨーロッパ人が持ちこんだ玩具、アフリカ系の人々が伝えた玩具、日系人が紹介した玩具…とまるで博覧会のように民芸玩具が勢ぞろいするのです。このコーナーでは、こうした町の市で見つけることの出来る楽しい玩具の数々を紹介します。

*アンデスの玩具*

高地アンデス地域にも古くから文明が栄え、スペインが入植した16世紀の頃には強大なインカ帝国が形成されていました。先住民と入植者たちとの政治的な統合はスムーズではありませんでしたが、民芸世界における両者の混合・発展は進み、ペルーやチリ、ボリビアの土製玩具などには先住民のもつ厳粛な造形感覚と南ヨーロッパの装飾性を兼ね備えた独特の造形が見出されます。


*南部アメリカの玩具*

ここでは、パラグアイやウルグアイの先住民の造形感覚を伝える土製玩具や、きびがら、木の実など自然素材を利用して作られる素朴な手作り玩具をご紹介します。

コマけん玉ボールがらがら

ラテンアメリカに伝わるコマやけん玉、凧などの形を見ると、南ヨーロッパ系の形を伝えるものが目立ちます。けれども、各地の先住民が伝えるコマなどは、瓢箪や木の実を使った素朴なもので、これらの玩具が誕生した古代の形を伝えているように思われます。各地のものをまとめて紹介し、中南米の国々に共通する形を探ります。

民族楽器

中南米は言うまでもなく、音楽に満ち溢れた大陸です。街角でマラカスを振りながら歌い踊る人々のパフォーマンスは素晴らしく、食堂の調理場から、鍋やボールを楽器に見たてて軽快なリズム演奏が行われたりする国々です。人々は子どもの頃から当たり前のように民族音楽に親しみ、地域独特のリズム感と音色を身体に刻み込んでいくようです。楽器の玩具の形に、先住民系、ヨーロッパ系、アフリカ系などの要素を見出すことができるのもこの大陸の特徴です。ここでは、マラカスや葦笛、摩擦太鼓など、素朴な楽器の玩具を展示します。

<会期中の催事> 

ギャラリートーク(展示解説会)
各コーナーごとに展示ケースの中から代表的な玩具を取り出し、メキシコや他の中南米の国々の民芸玩具の特徴や見どころについて、当館学芸員・尾崎織女が解説します。下記の日時、展示室にお集まりください。
〇日時=7月23日(日)・8月13日(日)・9月10日(日)・24日(日)‣10月15日(日) 各回14:00~

羊飼い(メキシコ・グアナファト州)

※ギャラリートーク以外の関連催事について、中南米の玩具を題材とするおもちゃつくり教室やメキシコ民芸玩具の絵手紙教室、ライブなどを企画中です。追ってご案内いたします。



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